ずっと、ずっと...〜番外編〜 <和兄と彼女2>
〜和せんせの想い〜
1
「和兄、馬鹿?」
病室で帰り支度をしている俺に妹紗弓の彼氏の遼哉がずけずけとそう言った。
「なんだよ、遼哉、その言い方は...」
「可愛い彼女の誕生日に怪我するわ、そのやり直しに妹とその彼氏は誘うわ...なぁに考えてんでしょうかね?」
「だから頼んでんだろ?適当に頃合を見て出かけろって...」
「いいのかなぁ?高校教師目指しちゃってる人が女子高生と付き合っちゃって...条例違反してない?」
「してないよ...」
「え?」
沈黙が流れる。
妹の紗弓と俺の彼女の真名海は二人仲良く精算のために一階に下りている。
真名海の誕生日に車とケンカして病院に担ぎ込まれた俺だけど、身体はなんともなく、翌朝担当医師から退院の許可を貰った。いや脅し取ったという方が早いだろうか?昨日暴れたのが効いたのか男の看護師を2人も連れてきていた。もう暴れないってば...
遼哉が気を利かせて真名海を迎えに行ってくれたらしいんだが、そのときに真名海が昨日のご馳走みんなで食べようといってそれを詰めて持ってきたのだ。この後俺の家に持って行ってみんなで食べようということになった。もちろん紗弓は喜んでるさ、あいつは昔っから妹が欲しいと言って母親を困らせてたんだから...まあ、それはいいとして、その後だよな?一応その後を考えているんだが、まぁ、紗弓には判らないだろうからと、遼哉にこうやって恥を忍んでお願いしてるわけだ。
「手出してないよ、ほんとに...まあだしかけたことはあるけど...」
「ま、まさか我慢してたの?あんな可愛い真名海ちゃん相手に?...和兄、尊敬するよ。三年間?すっげぇもってるじゃん、おまけに16になるまでって...決めてるとこがまた和兄らしいけど...」
くすくすと笑い出すのを堪えてる。こいつは...クールで通してるけど昔っから負けん気が強くて結構情熱家だったのを俺は知っている。柔道通してだけど、まあ長い付き合いだ。
「そりゃあ最低そのぐらいけじめつけないと...だろ?真面目に教師目指してんだからな。おまえのようにお構いなしって訳にはいかないさ。」
「ちぇっ、まあ、昔のことは言い訳しないけどさ...けど好きなオンナがいたらいくら代わりの女抱いても全然よくないんだよなぁ...紗弓を抱いてはじめて判ったよ、本当に好きな相手とだとこんなに違うのかって...ほんと飽きないっていうか、なんていうか...」
「おまえは兄貴の前でしゃあしゃあと...けど、あんまり泣かすなよ?あれでも俺のかわいい妹なんだからな?時々死人のような顔してるぞ、ったく限度を考えろ!」
「わりぃ...でもさ、ほんと自分がおかしくなってるように思える時がある。和兄も今度はわかるんじゃないの?三年も我慢したんならね。俺も5年分、まだ足らないくらいだからなぁ...」
「おまえ、2年も付き合っててまだ言うのか?」
軽く眉をひそめて笑ってみせるこいつは男の俺から見ても綺麗な顔をしている。やたらと色気を含んだその仕草や表情には未だにドキッとさせられることもある。ま、それはたいてい紗弓の前だったり、あいつの話をしている時限定なんだけどな...
「これで俺も和兄から迫られなくて済むわけだ、安心したよ。」
「おいおい、まだそれを言うか?もういい加減に忘れてくれよぉ...」
俺が情けない声をだすと、遼哉は自分のその細長い身体を折り曲げてげらげら笑ってる。そう、こいつが道場に通いだした頃、女の子と間違えて『俺のお嫁さんにしてやろう』なんてプロポーズしたことを未だに持ち出してくる。しょっちゅう女に間違えられて頭に来ていた遼哉が怒って俺の股間を蹴り上げたっていう、俺にとっては悲惨な思い出なんだけどな。
「けどさ、昔も今も和兄は俺の理想の男なんだぜ?俺こんな細っこい身体じゃなくって、和兄みたいな身体つきになりたかったなぁ。柔道好きだけど、俺のこの体格じゃもう続けられねえもん。」
「そうだな、おまえが俺ぐらいの体持ってたら、国体どころかオリンピックにいけてたかもな...」
そうこいつには天性の技のキレがある。俺がここで暴れまわった時も遼哉じゃなかったら俺を一発で落とせなかっただろう...
「まさか...でも外見だけじゃないよ、中身もさ、尊敬してる。自分で自分の道を決めて進んでいくとことか、周りに自然に気をつかえるとことか...和兄は、俺にとっても頼れる兄貴だから、今回事故にあったって聞いたときは俺もびっくりしたんだぜ?紗弓の手前しっかりしないといけなかったから隠してたけど、正直焦った...」
「悪かったな、心配かけて...けど俺も一回でいいからお前ほどの男前になってみたかったなぁ。選り取りみどりだろ?オンナもさ〜」
「いいのかぁ、真名海ちゃんに言ってやろっか?」
「馬鹿、冗談だよ!言うなよ、真名海には余計なこと一切!」
「わ、判ってるよ、普段からご協力いただいてる和兄にそんなことしねえよ。」
遼哉が笑い、その声が病室に響いた。
「もう、廊下にまで聞こえてるよ、二人の声...おにいちゃん声でかすぎ!」
帰ってきた紗弓がぷんぷんと怒って部屋に入ってきた。
「まさか...真名海?」
「聞こえてました。もう、真名海ちゃんが可哀想でしょう?」
ちょっと暗い顔をした真名海をかばうようにしている紗弓がかわりに返事する。
「真名海、冗談だからな?」
「わ、わかってるもん...」
「ほんとにもう、選り取りみどりなんてされたら困るわ。こっちだって選り取りしちゃうんだから、ねぇ?」
紗弓のお姉さんぶりも堂にいったもんだ。今度は遼哉が焦りだす。紗弓はバイト先やらでもやたらモテて、遼哉のやつも気が気じゃないらしい。
軽口を叩きながら俺たちは家まで戻った。
紗弓たちが準備をしている間に遼哉が昨日潰れたケーキの代わりを買ってきて真名海を驚かせた。それと紗弓が頼んだ16本の赤とオレンジの薔薇。
「来年から一本ずつ増やしておにいちゃんに貰いなさいね。おにいちゃん、どんなに可愛い娘でも好きな女性には赤い薔薇だからね?忘れちゃダメだよ。」
今回は可愛くオレンジも入れたけどね。と付け加える。俺のプレゼントは昨日渡してしまってるから何もない。
もう一つのプレゼントはこの後だから...
「あたし、こんなふうにお祝いしてもらうのってはじめてだよ。すっごく嬉しい!去年も和せんせや友達にお祝いしてもらったけど、なんていうのかな、家族にお祝いしてもらってるみたい...」
そういって涙ぐむ真名海。彼女のことを少しだけ紗弓にも話していたので、それだけを聞いて遼哉の胸に顔を伏せてしまった。紗弓のやつ、すぐもらい泣きするんだから...
「真名海は今からいっぱい幸せになればいい。姉ちゃんが欲しければ紗弓がその役買って出るだろうし、俺も兄貴役は降りちまったから、それはそっちのかっこいいお兄さんが喜んでやるだろうしな。俺のおふくろ達も真名海の歳聞いて驚いてはいたけど、またゆっくり連れて来いってさ。正月しか休まない店だからそん時に連れて来いって言うことなんだろうけど...な、俺の持ってるもん全部真名海のもんでいいんだぞ?まだ16だ、今からだからな、真名海。」
「う、うん...あ、ありがと...せんせ...紗弓さん、遼哉さん...」
俺は隣に座る真名海の肩をそっと引き寄せた。
遼哉が紗弓の顔を自分の胸に伏せさせたまんま立ち上がる。
「和兄、じゃ、あとはごゆっくり...俺もこいつ泣きやませなきゃなんないからね。」
そうさらっといってのけるが、かわりに鳴かすんだろうといった台詞は飲み込む。今言ってしまったら薮蛇になりかねない。俺だって...
「ああ、ありがとうな、遼哉、紗弓...」
二人が去って行った後、リビングには小さな沈黙が流れていた。真名海も察したのか下を向いたまんま何も喋らない。
よし!
「きゃっ!」
おれは思い切って真名海を両腕にお姫様抱っこで抱きかかえると二階への階段を上がっていった。ちょっと狭い階段だけれども真名海くらい軽いとそんなに支障はない。突き当たりの自分の部屋のドアの前で少しかがんでドアノブを開けて中へ入っていく。
腕の中の真名海が緊張してるのがわかる。それは俺も同じだ。
昨夜病室で目が覚めたとき真っ先に飛び込んできた真名海の声、姿...
夢の中でも真名海は何度もこの腕をすり抜けていった。だから目覚めてすぐに彼女を抱きしめたかった。
今日、このまま抱けなかったらすごく後悔してしまいそうだった。
もう待てなかった。何日か前にこの手で確かめた生身の彼女を、手離すことは出来ない。
あの時だって、理性が吹き飛ぶほどの可愛らしさで迫られて、俺自身がおかしくなっていた。真名海の母親が帰ってこなかったらきっと最後まで抱いていただろう。
真名海も同じ気持ちであって欲しい。
好きだから、抱きたい。
愛しい...
真名海をこの腕の中に、俺だけのものに...
前回えっちなしの反響は以外にも和兄らしいといわれてしまいました。(笑)真名海ちゃんサイドでドキドキの初体験もいいですが、和兄の耐え抜いた3年間の我慢を汲んで和兄サイドでの続編です。和兄、次回で意地悪したの許してね〜